“Hands-Only-CPR”について解説とJLAの方針

日本ライフセービング協会
理 事 長   小 峯  力
救命部理事   中 川 儀 英

 2008年3月31日付けでアメリカ心臓病学会(AHA)がHands-Only-CPRという一次救命処置(BLS)の方法を発表しました。 既にお聞き及びの会員の方もいらっしゃるかと思います。この方法は、バイスタンダー(現場に居合わせた人)が人工呼吸なしで胸骨圧迫のみのCPRを行なうものです。
人工呼吸の技能が十分でない、またそのために胸骨圧迫の中断が不必要に長くなり、CPRの質が悪くなるようなら、胸骨圧迫のみを確実に行なったほうがよい。胸骨圧迫のみでもそれなりの蘇生率が得られる、というのが理由です。

注意すべきなのは、このHands-Only-CPRというBLSを行うには、いくつかの条件があります。
どのような時に行うか?

  1. 傷病者が成人の場合
  2. 目撃のある心停止の場合
  3. 心臓に原因があると考えられる場合

このような場合に、もし救助者が人工呼吸の技術に自信がなければ、胸骨圧迫のみでよろしいということです。
もう少し解説しましょう。

  1. :傷病者が小児のときは適用しません。これまでどおり、気道確保+人工呼吸+胸骨圧迫のCPRを行います。
  2. :倒れたところを誰も見ていないような場合には適用しません。これまでどおり、気道確保+人工呼吸+胸骨圧迫のCPRを行います。
  3. :心停止の原因を推定するのは難しいことです。しかし、交通事故のような外傷で心停止になった場合、食物で窒息して心停止になった場合、重症の喘息発作で心停止になった場合、溺れて心停止になった場合などは、心臓以外の原因により心停止に至ります。このような場合も適用しませんので、これまでどおり、気道確保+人工呼吸+胸骨圧迫のCPRを行います。心停止の原因が気道や呼吸に原因があるなら、やはり気道確保や人工呼吸によって、体内に酸素を送り込むことが必要だからです。

AHAの発表を受けて、国際ライフセービング連盟(以下ILS)は世界の加盟団体に、Hands-Only-CPRが、どのような場合に適用され、どのような場合に適用されてはいけないか、正しく判断するよう注意を喚起しています。

さて、日本ライフセービング協会(以下JLA)では・・・
基本的に従来どおりの、気道確保+人工呼吸+胸骨圧迫のCPRを第一に行うべきと考えています。
その理由は次のとおりです。
まず水辺の事故では、溺れるといったように心臓以外の原因によることが多いからです。特に小児の溺水は、上に述べたように従来どおりのCPRを行わなくてはなりません。

そして、CPRを行う上で、酸素を体内に送らなくてもよいのでしょうか? 
否。やはり酸素は必要です。二次救命処置(ALS)の段階では救急隊や、救急医が行うCPRでは、従来どおり人工呼吸は行っています。すなわち本質的に人工呼吸によって体に酸素を送ることは必要なのです。

 そもそも胸骨圧迫のみでよい、といっても、それはBLSの段階で人工呼吸のスキルが稚拙なために結果として質の悪いCPRになるならば、胸骨圧迫だけはしっかりやろう、というニュアンスです。
一方で、JLA認定の資格を所有している会員の皆様は、人工呼吸を含めたCPRのスキルレベルが高いと考えられます。このことがJLAとして人工呼吸を省かない最も大きな理由です。AHAでは、“以前に人工呼吸を習ったことがあっても、スキルに自信がなければ、Hands-Only-CPR”を推奨していますが、その一方で、“きちんと実施できるならば、従来どおりの気道確保+人工呼吸+胸骨圧迫のCPRを行うべき”としています。

もちろん、JLAメンバーは人工呼吸を確実に行える、しかも人工呼吸による胸骨圧迫の中断を最短時間にするようなスキルを維持するために、普段からトレーニングをしておくことも、とても重要です。
新年度が始まり、新しいクラブ員も加入したことと思います。そして海のシーズン開幕も間近に迫ってきました。救助や泳ぎの技術と並んで、CPRのトレーニングもしっかりと行い、不測の事態に万全の体勢で臨めるように各クラブ、また各自、準備万端整えてくださるようお願いいたします。

なお、この件につきまして、ご質問がありましたら遠慮なく、JLA事務局までお寄せください。

以 上

“Hands-Only-CPR”について解説とJLAの方針(ワードデータ40k)

ILS CLARIFICATION STATEM ENT Issued 3 April 2008(PDFデータ28k)